経験と選択肢で未来を明るく。高校教師の挑戦

「ビジネス部」みなさんは耳にしたことがあるでしょうか。企業の部署名ではありません。実は、高校の部活動の名称なんです。一体どんな活動をしているのか、気になりますよね。

今回はそんなビジネス部の顧問である学校法人滝学園滝高等学校の清水敬介さんにお話を伺いました。学生時代から「ビジネス」に触れることの重要性から、子育て世代の悩める親たちへのメッセージまで。清水さんの熱い想いをお届けします。

学外の大人と関わる、ビジネス部の活動内容

編集部家本(以下、家本):
ビジネス部、とても珍しい部活ですよね。どんな活動をされているんですか?

滝高等学校 清水敬介さん(以下、清水):
はじめは同好会として、企業が主催する高校生向けのイベントに参加したりしていました。部活になってからの最初の活動は、地元企業との商品開発ですね。その後生徒の興味関心で活動内容が広がっていって、ビジネスアイデアコンテストへの応募や、起業家訪問、企業でのインターンシップ等を実施してきました。最近では、自分たちでイベントを企画したりもしていますし(『歴史・文化探求クエスト@円頓寺』)、間もなくベンチャー企業とのピッチイベントも予定しているんですよ。特徴としては、どんな活動でも学外の大人と直接関わるところでしょうか。

※ピッチイベントとは、スタートアップ企業が投資家など事業活動に賛同して資金を出してくださる方に対して、事前に準備した資料(ピッチ)をもとに、数分で自社のサービスや将来性を売り込むイベントのこと。プレゼンテーションと違い、不特定多数に対し短い時間で構想や事業計画を伝える力が要求されます。

商品開発の活動から見えた、生徒の自主性

清水:
基本的に活動は生徒が自分たちで勝手に動いていますね。商品開発での企業との交渉なんかも、生徒だけで行っています。

家本:
生徒だけで交渉まで行うのはスゴイですね!活動を自由に任せているのは、何か理由があってのことなのでしょうか。

清水:
顧問である僕がいちいち口を出さないほうが、生徒たちが自主的に動けるんですよね。そして成功も失敗もどちらも自分たちで経験してほしいと思っています。

家本:
学外の大人たちに自ら交渉していくのはなかなかハードルが高いように感じますが、生徒のみなさんに不安は無いのでしょうか。

清水:
あまり不安はないみたいですね。先輩たちが残した活動記録があるので、先輩に出来たことは自分にも出来る、と思えているようです。商品開発の提携先は毎年継続してお願いしている企業さんが多いので、先方が勝手を分かっていてくださる安心感もあるかもしれませんね。
そんな中で、毎年その年の部員ならではの商品企画を持ち掛けています。最近面白かったのは、「漫画に描かれる骨付き肉にかぶりついて見えるようなパン」です。提携先で何度も試作をしていただいてようやく完成し、文化祭で販売したところ、あっという間に完売しました。

家本:
自分たちの企画を実際にパン屋として営業している方々にカタチにしていただけるって贅沢ですし、とても楽しい経験ですね!

価値を創れる人財を育てたい。ビジネス部創設の想い

家本:
これまで活動内容を伺っても、私が知っている「部活」とはイメージが大きく違いますね。どうしてそのような部活を立ち上げようと思われたのでしょうか。

清水:
高校の生徒たちを教え、見ていくなかで「このままで大丈夫なの?」と疑問があったんです。受験勉強に向かっていってそれを突破して、その先を考えられるのかなと。ルールのあるパズルを解いていくことだけを繰り返しているように見えて。
この先どんな人材が求められていくのだろうと考えていたときに、「ワーク・シフト」を読んで、今後必要になるのは「価値を創造する力」だと思えました。じゃあそんな人材を育てられる活動を自分はしていこうと。

家本:
なるほど。それは、教科を学んでいくなかではなかなか身に着かないのでしょうか。

清水:
なかなか難しいですね。例えば、僕の教えている物理では、原理・原則からスタートして、様々な現象をみていきます。人生のある場面で、これが役立つことはありますよね。何か上手くいかないときに原因は何だと考える。例えば営業が上手くいかないとき、「お客様のことを知る」という根本的なことが出来ていないのかもしれない。この場合、「お客様のことを知る」が営業活動の原則と言えますよね。こういった「考え方」を学んでいく意味で、教科の勉強は大切です。
「価値を創造する力」を身に着けるのに大切なのは、実践の場だと思うんです。それは授業の中ではなかなか作れないので、部活動にしようと。

家本:
ビジネス部のお話とは逸れますが、その教科を学ぶ意義もとても腑に落ちました。私は理数系が苦手で毛嫌いしていたのですが、今のお話を聞くと学ぶ意味がちゃんとあるんだなと理解できました。

清水:
僕自身も学ぶ意義を見いだせないとなかなか身が入らないタイプだったので(笑)、そこは生徒にちゃんと伝えようと心掛けていますね。
あと、創設の裏話として、自分のキャリアや働き方を考えた部分もあります。僕は物理の教師ですが、物理の専門性を突き詰めていけるかと言われると、それは難しいと思えて。自分の軸ももう一つ持ちたかったんです。あとは、やっぱり部活の顧問を担当するとちょっとブラックな働き方になることが多いんですよね…(苦笑)。なので、自分がちゃんと必要だと思える部活動を担当したかったというのもありますね。

家本:
そんな生々しいお話までありがとうございます(笑)。
少し話を戻しますが、「価値を創造する力」を清水さんはどう捉えているのでしょうか。

清水:
僕が描いている人財像は「スキルがあり、ポジティブな心を持つ、未来志向な人」です。なので、部活動をするにあたって
①skills 技術:思考スキル、プレゼンスキル、プロジェクトマネジメントスキル
②mind 心:挑戦する、最後までやり切る、何事からも学ぶ・楽しむ、謙虚に、仲間を尊重する、現場に出る、批判を楽しむ、等
③career:将来への展望:自分事の課題に取り組む、夢中になれること・将来やりたいと思えることを見つける、大学や仕事は手段であって目的ではないと考える、等
の3つのことを身に付けられるよう意識しています。

誰かを幸せにできる、課題解決こそがビジネス

家本:
これまで伺ってビジネス部がとても意義ある楽しい活動と分かってきましたが、高校時代から「ビジネス」に触れる重要性を伝えるとしたら、どんなことでしょうか。

清水:
世の中を見る目線が変わってくると思うんです。なぜこの品物にこの値段が付いているのか、気になるようになったり。
特に伝えたいのは「ビジネス」は課題解決だということです。誰かの課題を解決してその人が幸せになって。その活動を継続していくためには対価としてお金をもらって、仕組みにしていかないといけない。それを理解していってほしいですね。そして自分ゴトの課題を見つけていってほしい。

家本:
高校生の頃からそんな考え方を持てたら、大学以降の過ごし方も変わっていきそうですね!
でも高校生で社会の「課題」を自分ゴトとして捉えるのは、とても難しいのではないですか?

清水:
そうですね。自分ゴトにしていくために、少しでも気になったことは徹底的に調べるように伝えています。調べていくうちにそのことばかり気になって、自分ゴトになっていくんですよ。
あとは、現場に出るようにも伝えています。最近は空き家問題に興味を持った生徒がいて、実際に空き家を見に行ったり、関わる業種として運送業の会社を訪問してインタビューをしたりしていました。その生徒は四六時中空き家のことを考えるようになりましたね(笑)。

家本:
なるほど。そこまでいくと、先のお話にあったように生徒が自走してどんどん動いていくようになりますね。

清水:
あと、自己肯定感を高めていけることもありますね。今、ある企業の視覚障害者向けの歯磨き粉を開発するプロジェクトに参加させていただいているんですけど、商品が完成して使ってもらえたら、生徒にとっても大きな成功体験になると思います。

家本:
それは素敵な成功体験ですね!例えばスポーツの部活でも試合に勝ったりチームワークを発揮できたり、成功体験をすることはできると思いますが、ビジネスで誰かの課題を実際に解決して幸せにできるのは、生徒にとって格別な体験でしょうね。

選択肢として知ってほしい海外留学

家本:
話は変わりますが、今度ASOVIVAで開催いただく【「海外大学という選択肢」 〜令和時代のこどもの教育について考える②〜】のイベントは、どういった背景で企画されたのでしょうか。

清水:
留学を選択肢として知ってほしい、と思ったのが一番の理由です。
現状、愛知県内だと学校側が積極的に留学の情報を出していることは多くはないんです。だから興味を持った学生は頑張って調べている。
海外に行くのが絶対良い!と言うつもりはないのですが、実は留学はそんなにハードルが高いものではないので、選択肢として知ったうえで、進学先を決めてほしいなと思います。

家本:
私も自分が進学するときに、留学は全然選択肢に入っていなかったですね…。留学する良い側面としてはどんなことがありそうでしょうか。

清水:
留学から帰ってきた生徒たちに接すると例外なく「このままじゃまずい」と、未来に向かって走っているイメージがありますね。留学を経験することで外に視野が広がるのと、生まれ育った環境を離れて生活することが内省の機会になるのではないかと思います。
これからは自分自身を含めて「why?」の問いかけを色んなところに投げかけ、自分の頭で考えることが大切だと思うので、留学はそれを刺激する機会になるのではと思いますね。

家本:
日本で大学へ進学するにしても、どの学科へ進もうかと考えはすると思うのですが、周りに流されて学科を選ぶこともありそうですもんね。

清水:
そうなんです。あとは、海外の大学では入試で「あなたはどんな見られ方をして人生を送りたいですか」なんて問いを投げかけられたりするんです。日本の入試の過去問で、そんな問題には出会わないですよね(笑)。

家本:
高校生にそんなことを問うんですね!!内省せずにはいられないですね…!

親の知識や選択肢が増えれば、子育ては苦しくない!

家本:
私も2歳になる息子を保育園に通わせて日々仕事と育児と奮闘していますが、なかなか子供が「学校」に入った後のことは想像できないんです。やっぱり、早いうちから子供の将来のことも考えていたほうが良いのでしょうか。

清水:
親として、子供が進む道の色んな選択肢を知っておくことは重要かなと思います。
特に、中高生にもなると子供の可能性にある程度見切りを付けてしまう親も少なくないと思うので、小さいからこそ選択肢をフラットに見れるのではないかと…。
今の時代は直線的に学びやキャリアを積む時代ではないと思います。日本の小中高大と進学、就職して結婚して子供を持って老後は…ということが当たりまえではなくなります。でも情報をアップデートしていないと、それ以外の道はあり得ないと思い込んで、外れることに異常に恐怖感を持ってしまう。
選択肢を知っておけば、もし子供が従来の道に適応できなかったとしても、他の選択肢を示すことができるようになりますよね。勉強だってリアルの学校に行かなくてもオンラインやPC教材でできるし、N高校のように尖った人財が生まれている学校だってあります。
親がどーーんと構えることができて、子供が心理的に安心してのびのびと学ぶ環境を作るという意味で、早くから選択肢を多く知っていることは価値があると思います。
ただ、大切なのは子供自身の意志なので、親の知った選択肢を押し付けないようには気を付けたいですね。

家本:
なるほど。確かに、子供がもし学校に行きたくないと言ったら…そんな時にもしっかり向き合ってあげられるように、選択肢を知っておきたいなと思えました。
子供の意志を尊重するのも大切だなと思いますが、そもそも熱中できることを見つけてもらうにはどうしたらいいでしょうか。

清水:
これは個人的な考えですが…
子供の話を聞く、共感する、可能性を信じる、刺激を与える、自分で考えさせる、やりたいことをやらせる。
そして親が生き生きと働く、自分のやりたいことをやる、挑戦する、未来に希望を持つ。そんな風に過ごしていたらいいのではと思いますね。

今後の名古屋エリア、教育への展望

家本:
ちょっと大きな質問ですが、今後名古屋エリアの教育は変わっていくのでしょうか。

清水:
名古屋エリアは、昔ながらの教育事情が根強いですね。保護者のニーズも、学校にちゃんと子供の面倒をみて勉強を教えてほしい、といったものがまだまだ強いです。

家本:
そうなんですか…子供の自主性はあまり求めていないんですかね…。

清水:
ちょっと悲しくなってしまいますよね。これを根本的に変えることはなかなか難しいですが、各地域で小さいうねりが起きていることは間違いないです。名古屋エリア各地のキープレイヤーが子供たちを巻き込んで活動していますので、ボトムアップでじわじわ変わっていくのでは、と思いますね。
僕としては、自分にできること、生徒が活躍して成功体験ができる場づくりを、想いを共にする仲間と一緒にやっていって、それを発信していきたいと考えています。

家本:
ボトムアップで地道に、ですね。このインタビューも清水さんの活動の発信に一役買えたら嬉しいです。今日はたくさんのお話をありがとうございました!

*****

私は「教師」に固定観念を持っていたんだな、と清水さんと話していて気づかされました。

教育は子供時代のものだけではなく、社会人になってからも続いていくものです。生徒の自主性を引き出すお話なんかは、部下を持つマネージャーのみなさんにも通ずるのではないでしょうか。

そして一人の親として、私自身も子供に選択肢を提示してあげられるよう、情報収集をしつつ、自分も生き生きと働いて人生の楽しさを見せてあげたいなと感じました。

 


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