アートの力で壁をなくす。保見団地アートプロジェクトに参加して見えたもの

エスケイワードは2020年4月、ミッション、ビジョン、コアバリューを制定しました。掲げられたミッションは「コミュニケーションで、世界のあらゆる壁をなくす」

どんなものを壁と捉えるかは様々。私たちひとりひとりが、小さなことでも壁をなくす活動に向かっていきます。

今回は、デザイナーの榮が個人の活動として携わった「保見アートプロジェクト」の話を聞きました。アートによるコミュニケーションがどう壁をなくしていったのか。絵を描くことの意味に改めて気づいた榮の想いをお届けします。

楽しそう!から飛び込んだプロジェクト

編集部家本:榮さんが参加した「保見アートプロジェクト」、どんな経緯で参加することになったのでしょうか。

榮:外国籍の方の居住が多い保見団地エリアでは以前から様々な課題がありました。私が参加した保見アートプロジェクトは、団地の課題にずっと関り続けているNPO法人トルシーダの主導で実施された壁の落書きの課題に取り組むプロジェクトです。落書きがたくさんあって暗い印象を持たれていた団地の壁にアーティストが絵を描いて楽しい空間にしよう、そんな主旨のプロジェクトでした。アーティスト代表の中島法晃さんから参加者募集の呼びかけがあって、「壁に絵を描けるなんて楽しそうだな~」と気軽な気持ちで参加を表明しました。

見えてきた課題のリアル

編集部家本:保見団地への課題意識は榮さん自身も持っていたのですか?

榮:プロジェクト参加するにあたり調べた程度で、最初は本当に気軽な気持ちで参加しました。集まったアーティストたちも、壁の落書きをアートに変えることだけを目的に集っていた気がします。
でも、プロジェクトの顔合わせで保見団地に行ってみて、そんな単純なものではないと見えてきました。実際に絵を描く現場は「憩いの場」と名のついた広場だったのですが、本当に落書きが多くて暗く怖い印象で、とても憩える場所ではなくて。住人の方々からもお話を聞く機会を得て、言葉の壁、文化の壁、生活習慣の違いなど様々な課題が重なり合っていることを実感しました。
アーティストはみんな保見エリアの住人ではなかったので、外からきた自分たちがどんなふうに役に立てるのだろうと考えて、まずは住人のみなさんに受け入れてもらうことが必要だと。それで、住人のみなさんにも参加してもらえるワークショップから始めることになったんです。

自分たちを知ってもらうワークショップ

編集部家本:はじめからワークショップありきのプロジェクトではなかったのですね。

榮:そうですね。まずアートプロジェクトを知ってもらうために何が必要かと考えて。チラシのポスティングなどの意見も出たのですが、やっぱりどんな人たちが活動しているのか知ってもらえないと受け入れてもらえないだろうと。それで、アーティストそれぞれの得意分野でワークショップを定期的に開催することにしたんです。

編集部家本:なるほど。住人の方々も、ご自分で参加してみたらアートの楽しさも感じられますもんね。榮さんはどんなワークショップを担当したのですか?

榮:プラバンでキーホルダーを作るワークショップをしました。自分の担当以外にも、他のアーティストが担当するワークショップにも交流を兼ねて参加していたのですが、すごく楽しかったですね。言葉の壁があるなかでのワークショップは初めてだったので、アーティスト側もどうなることかと不安を抱えながらの実施でしたが、参加してくれた方々もとても楽しんでくれている様子が伝わってきました。
「表現」することを素直に楽しんでくれていたんだと思います。例えば、絵具で大胆なペイントをするワークショップでは、自分の体に塗り始める子もいて。表現することを全身で楽しんでいる姿にこちらが驚かされましたね。パワーが溢れていました。常連になってくれた子供たちもいて、住人のみなさんとの交流もワークショップで叶えられましたね。

壁に描き、壁をなくす

榮:住人のみなさんと交流していくなかで、子供たちの教育の問題など、知らなかった課題もどんどん目の当たりにしていきました。アーティストの私たちがどこまで深入りしていいのか悩むこともありましたが、ワークショップを重ねていくなかで、子供たちの居場所をつくることや人と人を繋げることは大切だし、団地をキレイにすることで自分の住む街を好きになってもらえたらいいよねと、共通の目的意識ができて壁の絵に向かいました。

編集部家本:絵の構図などはどのように決まっていったのですか?

榮:まずは下絵をアーティスト同士で見せ合うところから始まったのですが、実際に壁に描いていくなかでは、隣のアーティストのエリアまで少し延長して描いたり、自分のエリアに他のアーティストのモチーフを描き入れてもらったりしました。そうやってミックスされていることが、保見らしさだと思ったので。
プロジェクト開始当初に想定していたものと違う構図になったアーティストもいましたね。はじめはみんな自分の描きたいものを描くつもりでいたと思うのですが、ワークショップを通じて保見の人たちを知っていって、みんな保見をテーマにした絵になっていきました

榮:3月に描いていたのでとにかく寒かったのですが、そんな中でもワークショップの常連だった子が毎日手伝いにきてくれて。その子は学校でうまくなじめなくて辛い経験をしたこともあったようなのですが、ワークショップに参加したことで挑戦する気持ちが芽生え、これからどんどん成長していきたいと言葉にしてくれて。そうやって誰かの良い変化への後押しができたことで、このアートプロジェクトをやった意味があったと思えましたね。
それ以外にも、絵が描かれていく途中で住人の方が「頑張ってね!」と声をかけてくれたり、「キレイになって嬉しい」と言ってくれたり。そんな言葉もあって、すごく楽しみながら進めることができました。

編集部家本:榮さんはどんな絵を描いたのですか?

榮:私は草花の絵を。保見の子供たちが空に向かって成長していけるようにとの想いで描きました。たとえ途中で横道に逸れたり曲がってしまうことがあったとしても、まっすぐ力強く伸びていって欲しいとの願いを込めて。

 

榮:「多文化共生」って言うのは簡単ですが、実際にその状況下に置かれてみるとすごく複雑で難しいことなんだと今回実感しました。それと同時に、ちょっとしたことでも変えるキッカケになることも分かりました。言葉が通じないから意味がないと避けずに挨拶をしてみるとか。お互いの文化が違うことを前提として、少しでも気遣い合う気持ちを持てればそんなに難しいことではなくなるんではないかなと思いました。日本人同士でも同じですけどね。
人と人を繋ぐ、壁をなくす手段としてアートが持つ可能性を今回のプロジェクトで再確認できました。言葉がなくても通じ合える、そのためにアーティストはいるんだと気持ちを新たにできましたね。

一つの壁をなくして、終わりじゃない

編集部家本:3月末に絵が完成した以降の評判はいかがですか。

榮:喜んでもらえているなか、管理してくださる方から「絵を保存するために触らないようしたり、子供達が遊ばないようにするべきか?」などの疑問を受けました。絵が完成したらそれで終わりではないですね。アーティスト仲間では、「憩いの場」で楽しく過ごしてもらうことが一番なので、汚れたらまた描き直せばいいと考えています。
保見団地の課題は、「遠いどこか」の課題ではないと思うんです。自分の身近にも同じような状況が今後できるかもしれない。それも胸に留めて、これからも継続して保見に関わっていこうと思います。

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榮が言ったように、保見団地にある課題は「遠いどこか」の課題ではないでしょう。日本にも外国籍の方が増えていくでしょうし、日本人同士でも性別や年齢や個性、様々な違いを認識した上でお互いに認め合って共に過ごしていくことが必要とされてきています。

「壁」はどこにでもあります。
でも壁の存在に気づけたら、きっと解決方法も見えてくる。

私たちはこれからも、コミュニケーションで様々な壁に向かっていきます。


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