映画『浅田家』で感じたアーカイブ

写真家・浅田政志さんの写真集『浅田家』『アルバムのチカラ』を原案とした映画『浅田家』をご覧になった方はいらっしゃいますか?

映画『浅田家』とは

家族を被写体にした卒業制作が高評価を得た浅田政志(二宮和也)は、専門学校卒業後、さまざまな状況を設定して両親、兄と共にコスプレした姿を収めた家族写真を撮影した写真集『浅田家』を出版し、脚光を浴びる。やがてプロの写真家として歩み始めるが、写真を撮ることの意味を模索するうちに撮れなくなってしまう。そんなとき、東日本大震災が発生する。

(シネマトゥデイより https://www.cinematoday.jp/movie/T0023966

映画前半は二宮和也さん演じる主人公、浅田政志が写真家となっていく様子を、後半では東日本大震災での写真洗浄のボランティアを通して主人公が「写真とは何か」の答えを見つけます。
とはいえ、今回の内容は『浅田家』の感想ではありません。
『浅田家』監督のインタビュー記事が悩んでいたことのヒントとなったのでご紹介したいと思います。

中野量太監督のインタビュー記事で見つけた一言

「人間は“自分の過去”を失うと土台がなくなってしまうんですよ。写真とはその大切な記憶を補完し、思い出させてくれる役割もあるんだなあって今回、映画を撮りながら改めて強く感じました」

(MOVIE WALKERより引用 https://movie.walkerplus.com/news/article/1007606/ )。

この言葉を見つけた瞬間、思わずメモしていました。
それは、この言葉がまさに自分が悩んでいることに対するヒントとなるのではないかと感じたからでした。

わたしはエスケイワードで、コーポレートアーカイブという仕事をしています。
コーポレートアーカイブとは一言でいうと「会社や組織にとって必要な資料を収集し、活用しやすいように整理・分類する」ことです。(コーポレートアーカイブについての詳細は近日公開予定)

資料を収集整理し、さらに整理した資料を会社のために活用するにはどうすればいいのか、どのような活用の仕方があるかなどを考えながら提案やサポートをしています。
そんな中で、わたしは最近悩んでいることがありました。

それは、会社にとってアーカイブとは「不要不急」の業務なのか?ということです。
さまざまな企業様とお仕事をしてきて、

  • 年史作成の際の資料探しがラクになった
  • 周年に向けて創業当時の社長の思いや現在までの変遷を知ることができた
  • これまで存在を知らなかった資料が見つかり、新しい発見があった

など「やってよかった!」と言われることが多い一方で、案件開始前やアーカイブを知らない方には、

  • 大事なのは分かるけど、急いでやる必要ないんじゃないの?
  • 今まで困ったことはないし本当に必要かな?

なんて言われることも少なくありません。
さらに今年は、コロナウイルスの影響で不要不急なことは止めるか延期すべき、という雰囲気が強くなり、わたしの仕事も大きく影響を受けました。
これまで「アーカイブをやりたい!」と言ってくださっていた企業様からも「今は難しい」と言われることが増え、案件のストップや作業工程の削減などがありました。

様々な企業様から「アーカイブをやってよかった!」と実感してもらえることを経験しているわたしにとって、アーカイブは「不要不急」ではないと考えていました。
しかし、このような状況では、まだまだ業務経験の浅いわたしではアーカイブをすることで得られる「利益」や「効果」を伝えるのは難しく、アーカイブに詳しくない人にも「不要不急」ではなく今こそ必要であることを分かってもらうにはどう伝えればいいのか、日々悩んでいました。

写真とは何か

そんな時、冒頭の中野量太監督のインタビュー記事に出会いました。

「人間は“自分の過去”を失うと土台がなくなってしまうんですよ。写真とはその大切な記憶を補完し、思い出させてくれる役割もあるんだなあって今回、映画を撮りながら改めて強く感じました」

みなさん考えてみてください。

映画の題材でもある写真、みなさんのお家にはどんなものがありますか?

自分の成長を記録した1枚、家族旅行や団欒の様子を撮影した1枚があったりするのではないでしょうか。
たくさん撮影した写真からベストショットを選び、綺麗にアルバムに入れ、なかには1枚ずつコメントが書き込んでいるものもあるかもしれません。

では、丁寧に作られ大切に保存されているアルバム(写真)をみなさんはどんなときに見返しますか?

おそらく多くの人が日常的に見返すことは少なく、思い出を話すときや聞くとき、結婚など家族の節目のイベントや、そこに写る誰かがいなくなってしまった時などではないでしょうか?

写真を見ながら当時の思い出を話して懐かしんだり、幼いころの自分を知ることで監督の言葉にあるように自分の土台(ルーツ)を知ることができます。
つまり写真はその人の歴史が写し出されており、その歴史を共有することで生まれるコミュニケーションツールのひとつになっているのです。

だからこそ多くの人が写真を撮影し、アルバムを作るなど、大切に保管しているのではないでしょうか。
そして、歴史を共有することで生まれるコミュニケーションを大事にしたいという思いは、会社においても同様だと思います

会社と個人の持つ資料の違い

しかし、記憶や思いを残すものは写真(アルバム)だけではありません。

個人でも手紙や日記など様々なものがあると思いますが、会社では業務に関わる書類や過去に開発した製品に関わるものなど、さらに多くの物(資料)が残っているはずです。

個人のものであればある程度内容が分かりますが、長い年月を経て、たくさんの人が関わっていることの多い会社には、内容の分からないものもあるのではないでしょうか。

さらに、すでにその出来事に関わっていた人や当時を知る人がいないこともあります。

だからこそ、会社の資料は個人のアルバム以上に必要なものを選んで綺麗に整理し1点ずつ説明がなければ、会社の記憶や思いを共有することも思い出すこともできなくなるかもしれません。

 

会社のルーツは社会的な信用に関わる

思い出すことができないと、「会社がどのような過去を経て今の姿になったのか」「どのような試行錯誤があって自社のヒット商品が生まれたのか」など、会社の土台(ルーツ)が分からなくなってしまいます。

また会社は個人と違い、過去やルーツを明らかにすることが社会的な信用や信頼に関わることもあり、コミュニケーションツール以上の役割をもつことがあります。

そのため、会社の過去の資料は必要なときに取り出し、会社の記憶や思い、土台を誰もが知ることができるようにすることが大切です。

 

現在も続くコロナウイルスの影響は、社会や働き方を大きく変えました。

「今何が起きているのか」、そして「どう立ち向かっているのか」という記録を残すことは、将来会社の土台(ルーツ)を知るための大切な資料になってくるのではないでしょうか。

では、その資料は誰が作り残していくのか。

それは、今この瞬間を生きているあなたです。

今を生き、実際に体験しているあなたにしか記録を作り、残していくことはできないのです。

だからこそアーカイブは、不要不急として後回しにするのではなく、今こそやる必要があるのではないでしょうか。

最後に

「アーカイブって面白い!」わたしはそんな風に思ってこの仕事につきました。

そして仕事をする上で少しずつ、会社にとってアーカイブって重要で必要なことなのだとも思い始めました。

なかなか説明しづらいアーカイブの必要性ではありますが、自分なりの考えで伝えられるように、これからも日々勉強していきたいと思います。

今回題材とさせていただいた映画『浅田家』、人とのつながりや家族について考えることが出来るとても温かい映画です。
ぜひご覧ください!