前回のSKeye(「オンラインで伝えるアーカイブ①」)では、大学でオンライン講義をおこない、学生さんにコーポレート(企業)アーカイブについて知っていただいたこと、そして私自身がオンライン講義で学んだことについて書かせていただきました。
今回は、オンライン講義でお話したことを中心に、私が講義で伝えたかったことを書きたいと思います。
1.アーカイブってなに?
この記事を読んでくださっている方にとっては「アーカイブ」ってあまり聞いたことのないワードだと思いますので、簡単に説明させていただきます。
そもそもアーカイブとは何か?
アーカイブの意味を調べてみると、様々な表現がありますが、「公文書・古文書・公共性が高くのちに歴史的重要性をもち得る記録や資料を、まとめて保存・管理する施設や機関および事業、データの長期保存やバックアップのこと」とまとめることができます。
みなさんの生活の中にあるアーカイブは、例えばGmailやインスタグラムのアーカイブ機能、見たかったドラマやバラエティー番組の見逃し配信などがあります。
また身近なアーカイブをおこなっている機関としては、博物館や美術館、そして図書館などが挙げられます。
博物館なら国の重要文化財や、地域の歴史的資料を収集・保存していますし、図書館なら図書資料や新聞などを収集・保存しています。
以上のようにアーカイブをする代表的な目的には、重要な資料や美術品を収集・整理し、未来へ保存していくことが挙げられます。
2.アーカイブは資料を整理するだけじゃない!
講義前、多くの学生さんは、「アーカイブとは資料の収集・整理・保存のこと」というイメージを強く持っていたようですが、それだけではなく私たちは「アーカイブとは価値あるモノを収集・整理してさらに活用(発信)していくこと」も大切だと考えています。そのため、学生さんにこのことを理解してもらえるような授業を組み立てました。
美術館を例に考えてみる
美術館のアーカイブは重要な美術品を収集・整理・保存することだけだと捉えがちですが、
美術館の行動指針には
・美術館は、展示公開や教育普及などを通じ、広く人々とともに新たな価値を創造する
・美術館は、地域や関連機関と協力連携して、総合的な力を高め、社会への還元を図る。
(出典:全国美術館会議『美術館の原則と美術館関係者の行動指針』)
と示されています。つまり美術館は、社会や人々に資料を活用してもらうためにもアーカイブに取り組んでいるのです。
そのため近年では行動指針の実現のために作品のデジタル化をおこない、いつでもどこでも誰でもWEBサイト上で閲覧できるようにするといった取り組みも見られます。
ではコーポレートアーカイブは何をする?
コーポレート(企業)アーカイブも同じく、企業が持っている過去の資料を収集・整理し、活用することを目的におこなっています。
企業がアーカイブをおこなう効果としては、もちろん重要な企業資料を長期的に保存することが可能になりますし、必要な資料をすぐに取り出せるようになるため、時短ひいては業務効率を上げることができます。そして過去の資料から企業の築いてきた価値を振り返り、今後の経営方針などを考える際に参考にできるといった活用方法もあげられます。
美術館でも企業でもアーカイブは資料を収集・整理・保存だけではなく、活用することが大切であるということです。
3.大学で歴史学を学んだ卒業生がこの講義を通して伝えたかったこと
少し話が変わりますが、同じ大学だった友達に前回のSKeyeの記事を送ったところ、こんなメッセージをくれました。
「歴史を使った希少な仕事をしているのがすごい!」
また学生さんからのアンケートを読んでいても
・学んだ歴史を活かすことができる職種はあまりないので、コーポレート(企業)アーカイブを魅力に感じた
・歴史が企業や社会に活かせることを知らなかった
・歴史のことを活かせる仕事は学芸員や教員等が多いのかなと感じていた
といったような内容が多く見られました。
このコメントを見て、私は多くの人が「『日常』と『歴史』を切り離して考えている」と思いました。
私自身も入社前に思っていたことですが、「歴史=学校で習ってきた教科の1つ。カルチャーの1つ。」のようにとらえている人が多いと思います。
特に私が卒業した歴史学科の学生さんたちも「学芸員や社会科の教員にならないと自分たちが勉強してきた歴史は活かすことができない」と思っていたようです。
しかし私は社会人として様々な経験を積み重ねていく内に、実はアーキビストや学芸員などの仕事に限らず、企業で働いていても「歴史」を活かしていくことはとても大切であることに気づきました。
組織には目に見えないですが、その組織特有の文化や風土があります。
この文化や風土は、みなさんが所属している学校や企業が長年蓄積してきたもの、つまり歴史によって成り立っていますよね。
また企業が今後の経営方針などについて考えたとき、本やネットから一般的なビジネススキルを学ぶだけではなく、過去の資料を活用し、企業の歴史を紐解き、「今まで自分たちの企業が作り上げてきた価値とはなにか」をもう一度整理して、経営に活かしていくことも重要だと思います。
つまり日常と歴史は切り離すことができないものであり、「過去の資料から企業や人が築きあげてきた価値(歴史)の整理をおこない、未来に活かす」ことは重要なのではないでしょうか?
歴史を学んできた学生さんたちは歴史から未来を考察するスキルがあるはずなので、企業や社会で活かしてほしいと思っています。
4.まとめ
今回は、オンライン講義の内容について書かせていただきました。
アーカイブは「価値あるモノを収集・整理・活用していくこと」であり、「活用する」ことによって多くのメリットが生まれることをみなさまに知っていただきたいです。
また歴史はカルチャー的な立ち位置ではなく、わたしたちが生活や仕事をしていく中でとても重要なものであることをお伝えしたいです。
第二次世界大戦期のイギリスの政治家であるウィストン・チャーチルは、こんな言葉を残しています。
The farther backward you can look, the farther forward you are likely to see.
(過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう。)
企業の在り方が多様になってくる時代、自社が築いてきた過去をより遠くまで振り返ることでこそ、未来を照らす強みや価値が見つけられるのではないでしょうか。
過去の資料から企業様が築いてきた価値の整理ができるよう、私たちコーポレート(企業)アーキビストがそのお手伝いをさせていただいております。
アーカイブグループでは企業様向けのアーカイブに絡めたワークショップ・セミナーも開催しておりますので、ご興味がある方はご連絡ください。